TOP > COLUMN > 秋元征紘のコラム > 4. 「ジャイロ経営」と新・日本の経営
秋元征紘のコラム

ジャイロ経営の薦め ~社員のパッションをマネージする~
4. 「ジャイロ経営」と新・日本の経営


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「戦略的経営」と「成果主義」は、日本では旨く機能しないか?

「日本企業においては、戦略的経営や成果主義は旨く機能しない」とする主張は、依然として根強いものがありますが、果たしてそうなのでしょうか。

「日本の経営」論は、1958年にJ.C.アベグレン氏が著した「日本の経営」が引き起こした「アベグレン旋風」から始まったと言っても過言ではありません。氏は、このテーマの古典中の古典となったこの本で、日本企業の雇用慣行を分析し、それを「終身の関係」(lifetime commitment)と名付け、「社会組織としての会社が構成員に対する義務あるいは約束する」こととし、日本企業の成長・発展を支える特長として積極的に位置付け、評価したのです。

80年代には、「日本的経営の三種の神器(終身雇用、年功序列、企業内組合)に政府との連携を加えた『日本株式会社』と呼ばれるシステムが、当時世界的な注目を浴びていた日本経済の成長発展の原動力である」とする議論がまかり通った時期がありました。もちろんこのような議論は、バブル崩壊後のいわゆる「失われた10年」の間には失速し、むしろ否定的な「終身雇用制の終焉」といった表現で再登場したのです。

2004年版「新・日本の経営」でアベグレン氏は、戦後日本の生み出した独自の方法としての「日本的経営」の柱を、「合意に基づく意志決定」、「終身雇用制」、「年功制に基づく昇給と昇進」、「企業内労働組合」として、株主や経営者よりはむしろ優先的に社員に報いることを目的とした「日本の経営」を改めて評価しているのは大変興味深いことです。

今日でも、一般的な世界の論調は、日本的経営はあくまで特殊で例外的なものであって、その雇用制度と経営方法が英米型に近づいていく形で解消されていくはず、との前提に基づくものが多いのが現実です。1998年、格付け会社のムーディ-ズ・インベスターズ・サービスが、終身雇用制が日本の大企業の競争力を低下させ、信用力をも低下させるとし、トヨタ自動車の格付けを引き下げたことは、当時大きく世間を騒がせました。しかし、多くの経営的指標において世界最強の自動車メーカーであるトヨタの強さは、絞り込まれた世界的規模の経営戦略と優秀な従業員の会社方針・ブランド価値へのコミットメント・忠誠心にあります。

このテーマは後の回で詳述しますが、「新・日本の経営」でアベグレン氏は、1958年に定義した「終身の関係」(lifetime commitment)が「終身雇用制」(lifetime employment)と誤って解釈された点を指摘していますが、その誤解を解くヒントは、「コミットメント」という言葉の意味にあったと思います。

結論的には「戦略的経営」や「成果主義」は、この様なコミットメントが確保されている企業においては旨く機能しているのです。そして「ジャイロ経営」はこのコミットメントそのものをテーマとしているのです。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


現場から見た「日本の経営」

1979年、私は入社以来、ニューヨーク、トロントの駐在経験を含め、約10年在籍した日本精工(株)を辞めました。直接の理由は、会社の先輩の始めたベンチャービジネスに参加するためでしたが、この「終身的関係」からの脱出が本当の理由であったという個人的な経験を持っています。

アベグレン氏の1958年版「日本の経営」に次のような表現がありました。
「日本企業の組織構造の根底にあるとみられる態度や動機は、基本的に伝統的なものである。現在の制度も、制度を作り上げ、指導する立場にある経営陣もともに、大部分が戦前の産物である。・・・要するに、企業組織とその指導者は、都市化が進んでおらず、伝統的だった戦前の日本の生活と見方に、直接に密接に結びついている。世界市場や国際関係、技術の変化が現在の企業組織に与える影響はしばらくおくとしても、企業ではたらく人びとという点で、従業員の態度と期待とが、組織の方式や経営陣の態度と期待にうまく適合しないことによるひずみが生まれている。」

10年以上ものあいだ、海外留学と海外におけるビジネス経験を積み、それなりに人生に対する夢と情熱をもって努力をしてきたつもりの私にとって、このひずみは大変に大きく重いものとなっていたのです。

「終身雇用」と「年功序列」に基づく私の給与と報酬は、卒業同期で商社や金融業界に就職した友人達に比べても低く、入社10年近くになっても、学生時代、とくにオーストラリア留学時代あるいは米国・カナダでの海外生活の間に夢見たライフスタイルの実現には程遠く、その将来もあまり期待できないように思えていました。

義務として参加させられた労働組合の集会も、保守的な規律・規制を強要し、個人の自由を束縛する農業共同体的な温情主義に感じられ、参加する事も苦痛で、好きになれませんでした。

私にとってさらに深刻な問題は、会社が私に期待しているものと、私が会社に貢献できると考えていたものとの間に決定的な違いがあったことでした。会社は「創造的な戦略的提案とその実践によって参画的に貢献したい」と考えていた私に、「より効率の良い管理体制の確立に貢献できる、従順な猛烈企業戦士的人材の一人」になることを期待していたのです。
そしてこの事実の確認に、実に貴重な10年が費やされたことも、大きなストレスとなっていました。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


若手社員が会社に魅力を感じない・感じなくなった理由

私は2004年から3年間、母校の上智大学経済学部で3-4年生対象の講義を非常勤の講師として担当していました。
テーマは「グローバル社会と経営戦略」で、その概要(シラバス)は、

“グローバル社会の到来は、いわゆる三種の神器(終身雇用・年功序列・企業内組合)に代表される「日本的経営」の終焉をもたらした。講義の前半は、古典的意味での「企業家精神」、「革新」や「創造的破壊」といった概念から始まり、グローバリゼーションのもたらす社会経済的効果や、現代におけるビジネス言語とも云える「戦略的経営」、「ブランドマネージメント」や、その為に「必要とされる人材」と云った問題の、より正確な理解を促す内容。後半は、グローバル社会のリーダーシップの要件、経済・経営の近未来に関わる問題点が参画的に討議される。」”

この講義の最終レポートは「グローバル社会のリーダーとなる為の、自分自身の戦略的キャリアパス(Career path)計画を述べよ」と題し、毎年二百数十名の学生の提出したレポートから、彼らの考えたキャリアパス戦略に目を通す機会を持ちました。

このようなレポートのテーマにした理由は、最近でも良く指摘されている「3年で退社する新入社員」にありました。没個性のリクルートルックに身を固め、就職冬の時代とされた時期を含め、難関を突破した学卒の新入社員が、 毎年入社して来るものの、その多くが自分の選んだキャリアに自信が持てず、入社2-3年後に辞めてゆく姿を見てきたからです。

このような現象は、本人や企業にとって大きな損失であることはもちろん、ひいては日本社会にとっても大きな損失であると考えていました。また、私が日々接している、彼らと同世代の欧米やアジアの人々との比較においても、日本の若きエリート達の幼児性は深刻であるとも感じていました。そこで、彼らが社会に出てゆくための準備として、自らの人生やキャリアに対する「志」・目的・目標、戦略、行動計画を考えるチャンスを作り、そのための問題解決の手法を提供しようとしたわけです。

しかし、多くの場合、問題は会社の側にも多くあるものです。一般的に若手社員が会社に魅力を感じない・なった理由を調べると、例えば以下のようなものがあります。

 ・ 指導者/経営陣のビジョン/価値/「志」や戦略がよく理解できない
 ・ 保守的/権威的/非参画的/官僚的な、
   あるいは日本的な組織文化に馴染めない
 ・ 中長期経営計画の内容を知らないか、業務との関連性が不明確である
 ・ 明確に規定されていない職務/業務内容と責任範囲
 ・ 正当な評価による昇給/昇格/人材開発が行われていない
 ・ 決定が遅く、かつ柔軟を欠いた、
   あるいは選択肢を持たない意思決定プロセス
 ・ 買収/社長交代後の「新たな指導者/株主」の
   ビジョン/価値/「志」や戦略がよく理解できないか、馴染めない

このような問題の解決も含め「ジャイロ経営」を展開していく上では、次のような項目を満足させる社風・企業文化を築いていく努力が、手法の導入と並行してなされることが、大変に重要です。

 ・ 明快なビジョン
 ・ リーダーシップ的経営
 ・ 平坦で参画的な組織
 ・ 戦略的な経営プロセス
 ・ 明確な職務・業務責任の規定と適正な分担
 ・ 正当な評価に基づく昇給・昇格
 ・ 迅速かつ柔軟で選択肢をもった行動的意思決定

「企業の活力は、組織の論理的な理性と熱意に支えられる感情という、二つのベクトルを、正しい方向性を持ってバランスよく管理・発展させることによってもたらされる」わけで、このような企業文化の構築は、「ジャイロ経営」を熾烈なグローバル規模の競争に勝利するために活用する上で、大切な必要条件であることは言うまでもありません。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


創造的・優秀な人材が集まり難く、定着しない理由

シュンペーターは「経済発展の理論」で、「企業家」を「新結合の遂行をみずからの機能とし、その遂行に当たって能動的要素となるような経済主体」と定義し、静態的経済の循環の軌道に従って企業を経営する者は「単なる経営管理者」であるとして区別しました。

さらに、新結合による革新(イノベーション)こそ「経済から自発的に生まれた非連続的な変化」であるとしました。このような指導者機能とは、新しい可能性を「発見」したり「創造」する必要はなく、「これらのものを生きたもの、実在的なものにし、これを遂行すること」であるとしています。

この指導者機能の特徴として「まず事物を見る特殊な方法」、「ひとりで衆に先んじ進み、不確定なことや抵抗のあることを反対理由と感じない能力」、「『権威』・『圧力』・『人を服従させる力』といった言葉で表すことのできる他人への影響力」が挙げられました。このような「企業家」はもはや単なる経営管理者とは異なる、新しい指導者機能であるわけで、シュンペーターはそれを「企業家精神」と呼んだのです。

このような意味でのイノベーション力が競われ、この勝ち残るための「企業家精神」がますます要求される一方、創造的で優秀な人材が集まり難く、定着しない理由として、下記のような項目が問題として挙げられています。

 ・ 個人の自由度が尊重されていないか、著しく制限されている
 ・ 性別/人種/国籍のみならず、異端/異質の
   価値観/行動が許容され難い組織文化
 ・ 個人を評価するシステムが曖昧で、制度化されていない
 ・ 失敗が許容されず、リスクがとり難い環境
 ・ 一方的な上意下達か温情的で、個々人の自立を基礎とした
   連携がなされていない

先の社風・企業文化と並行し、組織の目的・目標に従うのではなく、論理的にも感情的にもよく理解・同意して、積極的に参加する、創造的で優秀な社員を確保していくためには、現代の経営者には以下の価値観を実践していくことがさらに望まれています。

 ・ 個人の自由度の尊重
 ・ 異端・異質の許容
 ・ 個人を尊敬を持って評価
 ・ 失敗を許容
 ・ 自立を基礎とした連携


前のページ    1    2    3    4    5    次のページ


  代表 秋元征紘が
  ジャイロ経営をご説明します。